一雫 ヒトシズク
音楽カレッジ時代の事を、ふと懐かしく思い出す今日この頃。
突然飛び込んだ作詞の世界は、とても新鮮だった。
作詞の仕組みなんてまるで分かっていなかったから、
その構成と、制約の多さに驚愕したっけ。
音数、曲のイメージ、コンセプト、歌いやすさ、
登場人物、ストーリー展開、季節感、モチーフ、仕草、台詞、
サビのインパクト、などなど上げたらきりがないけれど、
全部気にしてたら一行も書けなくなる。
職業作詞家には感性だけじゃなく技術が必要なんだな、と思った。
とてつもなく難しいのに、その難しさは端から見ても分からない。
例えば松本隆さんの「赤いスイートピー」
春色の汽車に乗って海へ連れて行ってよ
煙草の匂いのシャツにそっと寄り添うから
たったこれだけの中に、
季節、登場人物、恋愛、ストーリー、仕草など、
たくさんの情報が詰め込まれてる。
ドライブじゃなくて汽車というのも、初々しい二人にはぴったりの背景。
そっと寄り添うしか出来ない主人公のいじらしさと、
それでも連れて行って欲しいと願う強い想い。
たった二行で、ドラマのまっただ中に連れていかれる。
それを、ひとつの「説明」もなしで分からせるこの力量には、脱帽した。
なんとなく聴いていたヒット曲が、これほどまでにすごいなんて思わなかった。
赤いスイートピーは、この後に続くBメロで、
男性の奥手な行動から主人公の切なさを存分に引き出し、
サビでドカンと想いを爆発させる。口を大きく開け、「あ」から始まる見事なサビ。
「春色の汽車」や「心の岸辺」など、言葉の感性もこれまた見事で。
これがプロの仕事だと思った。
シンガーソングライターが主流になり、
アーティストの個性が重視される今、
職業作詞家の需要は減りつつあるのかも知れない。
だけど、それでも、歌詞を書く事が楽しくてたまらなかった。
私は、「私」である事を分かってもらうより、
誰かが、私の書いた歌を口ずさんでくれる事の方が嬉しい。
気に入った歌を口ずさむと、人はほんの少し幸せになれる。
あいにく私は曲を作れないし、歌も歌えない。
だからせめて言葉で、人の心に残る歌が書きたい。
カレッジ時代に書いた「ヒトシズク」という歌詞を、
以前から注目していたシンガー、木下綾香さんに歌ってもらえる事になった。
ただ聴いて欲しいという想いで作った楽曲なので、販売する形ではないけれど、
いつか、誰でも聴けるような形でリリースしたいと思っている。
何もかも、きっとまだ始まったばかり。
明日が色付きますように。
木下綾香さんのウェブサイトはこちら。
一度覗いてみて下さい。
http://ayakakinoshita.com/
「一雫 ヒトシズク」
好きな服なら 決められるのに
歩む道は 選べずに迷子
心のコップ 空っぽと思い込み
注がれることだけを望んでいたの
ああ 透き通ってるままだから 見えないだけさ
本当はほら こんなにも
あなたがくれた ヒトシズクが 100の色にも染める
あなたがくれた たったヒトシズクで 明日まで色付く
* * *
優しい気持ち 溢れ出したの
欲しがらずに 手を繋ぐ笑顔
心のコップ 始めから注がれた
たくさんの愛情に気付いただけで
ああ 静かに溜まった願いが 目に映るよう
見つめてよほら こんなにも
あなたがくれた ヒトシズクが 100の色にも染める
あなたがくれた たったヒトシズクで 明日まで色付く
あなたがくれた ヒトシズクが 100の色にも染める
あなたがくれた たったヒトシズクで 歩く道 描くの
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